創土社版復刻ゲームブック「送り雛は瑠璃色の」レビュー。古典好き向き、予想外にルールが厳しく、物語の唐突感が否めない。
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今回は純日本風のゲームブックとして名高い「送り雛は瑠璃の」創土社版のレビューを書きます。
↑こちらの作品は1990年に出版された↓社会思想社版の復刻版です。
送り雛は瑠璃色の (現代教養文庫―アドベンチャーゲームブック)
- 作者: 思緒雄二
- 出版社/メーカー: 社会思想社
- 発売日: 1990/10
- メディア: 文庫
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2015年3月末まではiGameBookでアプリが配信されていました。
返す返すIGameBookの終了は残念ですね。
そして筆者が創土社版をプレイした印象もまた、ちょっと残念なものでした。
瑠璃色ってどんな色?
皆さんはどんな色をイメージされますか?
筆者は松田聖子さんの「瑠璃色の地球」とか
小島瑠璃子さんとかを思い浮かべてしまうんですけど……。(色じゃねー)
ぐんじょう色に似てるの? 玉虫色に近い?(それも色じゃねーし)
勝手に山吹色の波紋疾走の様な色をイメージしていたんですが、ググってみたら、まあこんな青系のシャレオツな色味だったのですねえ。素晴らしい。
こういう系の色って好きですね。
物語への誘い
主人公は中学3年生。緑中学校に通う同級生達と共に災害や事件に立ち向かうのですが、いろいろと背景が奥深いものになっています。そしてその多くが謎に包まれていて、結局最後まで(筆者には)わからずじまいというものも多数あります。
純日本風のゲームブックと言うことで、万葉集の和歌や古典が多数登場し、物語の謎を解く鍵になっているようなのですが、筆者の偏差値では全く対抗できませんでした。
これは古典が得意な人・好きな人には有利に働きそうですよ。逆に苦手な方(筆者など)は著しいハンデとなることでしょう。
ゲームシステム
この作品の特徴として体力点・技術点はなく、能力値は霊力点と呼ばれるパラメータただ一点のみを取り扱います。
おお、画期的。これはゲームを進めるのがとても簡単なのではと筆者は期待しました。が、それはバトルシーンのみの話で、物語を進めるのにはもう一つパラメータがありました。
それが日付と時刻の概念。まず一日が下記八刻に分かれているのです。時刻は主人公は何か行動を起こすたびに刻々と過ぎていきます。
あけぼの→あさ→ひるなか→ひるさがり→たれそかれ→よいのくち→よる→うしみつ
あんまり聞き慣れない用語なので筆者は最初戸惑いました。「たれそかれ? 黄昏じゃなくて? その次の時刻はなんだっけ? あ、よいのくち?」
大変でしたね。時刻の管理。で、一周りすれば当然次の日になるわけですが、その境目はどの時刻? 恐らく本来は「よる」ー「うしみつ」で日付が変わるんでしょうけど、どうにも「あけぼの」から始まる前提で作られているようで、筆者はここでも混乱しました。(どこで日付が変わるかの説明はなし)
最初はメモ帳に入力していましたが、それでは拉致があかず、結局エクセル(正確にはGoogleDocのSpreadSheet)に表を作りました。
↑このように、時刻が過ぎるたびに「C」の欄に「*」を入れてゲーム内の時刻を管理しました。
ある日付と時刻が来たら自ずと発生するイベントが何度もあるので、昼と夜で指示されるパラグラフ番号が異なる場合もあり、正確に日付と時刻を管理しなくてはならず、混乱を併せて手間がかかって仕方ありませんでした。
実はこれがこのゲームのUIを下げているとしか思えないんですよね。
イベント管理が刻々と進む時刻で出来るのはいいとして、結局は町の散策に制限があるということになり、物語の謎を解く敷居を上げているのです。
マップを散策せよ!
主人公は自分の住む町を散策することでヒントを手繰り寄せていきます。
マップも与えられていますし、場所にパラグラフ番号が振られ、主人公は煩わしいダンジョン散策や、マッピングの必要はありません。楽だなあと思いがちです。
ところが、です。先に述べた時刻の管理を必要とし、それに応じ昼夜で行くパラグラフが異なり、日付と時刻によりイベントが発生し、強制的に向かわなくてはならないパラグラフもあり、思ったより情報収集が困難なのです。
重ねて、辿り着いた場所でも有益とは思えない情報しか集められないことも多く、断片的で、主人公が知り得た情報が一体どこで何の役に立つのか不明な事ばかりです。
そもそも目的は何?
これが一番困りました。主人公が中学生で同級生とのやり取りや家族との会話などいろいろ交わされるんですけど、当初は目的が全く分からないんですよ。
何をすればいいの? って思いました。
正直状況もよくわからない中で上記の条件下で町を散策って、モチベーションを保つのが容易ではありませんでした。
時刻ばかりが過ぎていき、何事も起こらない平和な町だなあと思っている矢先、事件が起こります。
突発的過ぎる
凄い変な事件です。まさかこう言う事件が起こるとは。平和な日常はこのような嵐のような事件の予兆だったのでしょうか。
さらにもまして同級生たちの変貌が著しいんですよね。主人公本人もある能力に半ば強制的に気付かされて、思いもよらない行動を強いられます。
強引すぎないかなあ。なんでそうなるの? と筆者は気持ち的に置いてけぼりでした。
やたらと主人公の力を必要とされるんですけど、なぜ必要とされているかの実感に乏しいんですよね。そういう場面に出くわすことがなかったもので。
そして背景を物凄い因縁がうごめいているのは察するんですが、どのパラグラフでそれに触れられているのか全く理解することが出来ませんでした。
出てくるのは古典や万葉集の和歌の解釈とか、得体のしれない白日夢。つかみどころがないですね。
あと選択肢が数多く羅列される時がかなりあり、じゃあどれを選ぼうかという時に、根拠となる材料に乏しく、結局読者の当てずっぽうや試行錯誤しかなく、霊力ポイントと読者の根気勝負になってしまっているような気がします。
かつ時間制限されているため、散策する回数が限られるので、結局何度もゲームオーバーにならなければ物語を完結出来ない仕様になっています。
確かにゲームブックはクリアしたからといってその全容を解明できるわけではありませんが、その解明出来ない部分が多すぎると思いますね。
労力はかかっている
文章も異様に長いものも多く、小説的に読む進めることが出来るパラグラフも数多いです。加えて、上記で触れたように万葉集や古典についてのウンチクは物凄いレベルです。なので、コテコテの国語好きの方であれば物凄く好きになると思うのですが、古典が苦手な人はダメでしょうね。
文章そのものは読みやすいんですが、古文が出てきた途端に異常に難解になるんですよね。読む人を物凄く選ぶ作品です。
労力はとてつもなくかかっている本作ですが、その労力に見合った読者満足を提供できているかと言われれば首を捻りたくなります。
例え古典が苦手な人でも、わかりやすく理解できるような作りだったら、もっと人気が出たことでしょう。
勿体無い
「送り雛は瑠璃色の」がiGameBookでリリースされたのも妙な縁ですね。
iGameBookのFacebookページは13万いいね! を超えています。いいね! に力を入れるよりはUIやUX、マネタイズに力を入れるべきではなかったか。選択肢をあやまったからこそ14に行く羽目になったのでは。
「送り雛は瑠璃色の」もiGameBookも、力の入れどころを少し変えていたら、良かったのかもしれません。
余談
Wikipediaにも掲載されているので、恐らく正しい情報かと推察しているのですが
↑こちらの作品の作者の方、「思緒雄二」先生は
筆者が絶賛した「失われた体」の作者「門倉 直人」先生と同一人物のようなんですよね。
確かに、「送り雛~」の霊視や霊査と、「失われた体」のマジックイメージはとても似ているような能力です。
さらに選択肢がたくさんあって、体力とにらめっこしながら試行錯誤するしかない場面があるところも共通しています。
まず同一人物と考えて間違いないでしょう。
今回「送り雛~」の筆者の評価は「残念」としてしまいましたが、またぜひとも新作をしたためて頂きたいと思います。
以上、北海道からでした。