こんにちは。
ゲームブック投稿サイトを運営してるものです。
ゲームブックをご存じない方のためにこのエントリを認めたいと思います。
作品の具体例についてはこちらのサイトもご参照下さい。
Wikipediaによると、
ゲームブック (Gamebook) は、読者の選択によってストーリーの展開と結末が変わるように作られ、ゲームとして遊ばれることを目的としている本である
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B2%E3%83%BC%E3%83%A0%E3%83%96%E3%83%83%E3%82%AF
とあるのですが、現在では「本」以外にもアプリ、動画、音媒体ですらあります。
共通するのはアドベンチャーゲームの一種であり、ユーザーには状況説明が与えらたワンシーンに遭遇します。(それをパラグラフやセクションと呼んでいます)
そして、選択肢が提示されます。
ユーザーはそれを選び、番号をふられた次のシーン(パラグラフ)へと進みます。
選択如何で状況が悪化したり、好転します。悪い選択肢ばかりを選び続けると、予想もしない展開になり、ゲームオーバーを迎えることもあります。
やり直して別の選択肢を選ぶなどして試行錯誤を繰り返せば、グッドエンドを迎えることが出来ると言う感じになっています。
順にそれらの概要について説明していきたいと思います。
1.紙媒体:CYOA
日本で初出のゲームブックは諸説あれどアメリカで生まれた”Choose Your Own Adventure”、略して”CYOA”だと言われています。
日本語版は「きみならどうする?」と言う名で学研(現・学研ホールディングス)から出版されました。
Wikipediaから引用しますと
『きみならどうする?』では、各パラグラフで状況を説明する文章の後に、物語をどう進めるかについての選択肢が提示される。
例えば、
家から出発するなら、4ページへ進め
待ってみることにするなら、5ページへ進め
といった具合である。読者の選択により物語は異なった展開を示し、最後には違った結末に辿り着くことになる。
と言う様になっており、このシリーズの多くは15種類以上の違った結末がそれぞれ待っているそうです。
2.紙媒体:TRPG
現在スマホゲームでもRPGが主流ですね。グラブルやモンスト、パズドラもRPGです。
そのRPGの原型がTRPGです。”Table talk Role Playing Game”の略です。
これはゲームを取り仕切るゲームマスター(GMと呼ばれる)が一人必要で、プレイヤーが数名参加し、ルールブックに基いて会話をしながら紙や鉛筆、サイコロを使ってゲームを進めるものです。
日本でRPGと言えば
- コンピュータ(PC、ゲーム機、スマホ等)限定
- ファンタジーの世界観
- キャラクターが成長していく
- 冒険してクエストを達成させる
などと言った特徴がありますが、諸外国ではRPGはTRPGを含め、広義の意味を指します。
ここではその詳細は割愛するとして、TRPGは上記に述べたように一人では遊べません。
そこでイギリスのTRPG好きの二人、スティーブ・ジャクソン氏とイアン・リビングストン氏は
- 一人でもTRPGを楽しめるように出来ないか?
- TRPGの楽しさを広められないか?
と言うことを考えた末に制作したのがこのゲームブック界の金字塔、「火吹山の魔法使い」です。
上記CYOAにTRPG要素を加え、ダンジョン散策が出来るようにしました。
ダンジョンの例を示しましょう。
↑例えば、このようなマップ原案に対し、次の文章が読者に提示されます。
【1】
君は入口に立っている。真っ暗な洞窟だ。ランタンに火を灯そう。どうやら北に進めるようだ。北に進むなら →【2】へ行け
【2】
君は十字路に立っている。東からは何やら物音が聞こえる。誰か居るのかもしれない。
さてどうするか?
東へ進む →【4】
西へ進む →【3】
南へ進む →【1】
北へ進む →【5】
【3】
君はL字型の交差点に居る。静寂が君を包む。早くここから出たいものだ。さあ、動こう。
東へ進む →【2】
北へ進む →【7】
【4】
君が歩を進めると、何やら只ならぬ気配を感じる。「ウオォォォォ!」獣が吠える! うわっ! キマイラだ! 君は慌てて剣に手をかけるもヤツの一撃を交わすのが遅れる……。残念だ。君は死んでしまった。最初からやり直すこと。 →【1】
【5】
君はL字型の交差点に居る。足元が湿気を帯びており、石畳の上を歩くのは滑りそうだ。気をつけて進め。
西へ進む →【6】
南へ進む →【2】
【6】
君はL字型の交差点に居る。バサバサッ! うわっ。突然の音と若干の風圧に君は驚く。何だ蝙蝠か。彼らは君の来訪に警戒して立ち去っただけのようだ。さあ、気を取り直して歩こう。
東へ進む →【5】
南へ進む →【7】
【7】
君はT字路に立っている。いつまでこの散策を続ければよいのだろう……。打ちひしがれる君は足元に清流が流れていることに気づく。君はしゃがみ込み、手ですくって一口飲む。「ほう」と短い溜息が出た。歩ける。行こう。(走れメロスのパクリです)
西へ進む →【8】
南へ進む →【3】
北へ進む →【6】
【8】
君はL字型の通路にやってきた。北の方は何か明るく光っている。怪しい魔法使いでもいなければいいのだが。
東へ進む →【7】
北へ進む →【9】
【9】
君は慎重に歩を進める。するとどうだ。目の前が眩しい。暫く君は目を閉じる。そう。幻ではない。待ち望んでいた外界だ! おめでとう。君は無事にこのダンジョンを制覇することが出来たのだ。ハッピーエンド。
ま、こんな感じです。
読者は選択肢を間違えばずっと【2】→【5】→【6】→【7】→【3】→【2】……と永遠にダンジョン内を彷徨うことになります。
そしてその選択肢を選んじゃうように文章を書き添えるのがゲームブック作家の腕の見せ所なんですね。
読者にはマップは普通与えられておらず、自分で方眼紙などに書いていく事が勧められています。
この作者と読者とのゲームブックを通じてのやりとりがTRPGのGMとプレイヤーのやりとりの様で大変面白かったんです。
では次に戦闘についても触れましょう。
上記では【4】でキマイラに出会うと死ぬようになっていますが、実際のゲームブックでは敵との戦闘シーンへと移ります。RPGと同じような要領で、すべてアナログ・マニュアルで行います。ここでは単純にサイコロ一つだけで遊べるようにします。
【戦闘】
キマイラが現れた! 剣を抜いて戦え。
キマイラ 体力点10 技術点10
君 体力点15 技術点13
【ルール】
(1)
まずは君の攻撃の番だ。
サイコロを振れ。出目と君の技術点を加算せよ。それをAとする。
(2)
次はキマイラの攻撃。サイコロを振れ。
出目とキマイラの技術点を加算し、それをBとせよ。
(3)
A>Bなら君の攻撃が成功。キマイラの体力点を二つ減らせ。
A<Bならキマイラの攻撃が成功。君の体力点を二つ減らせ。
A=Bなら互いの攻撃は交わされた。両者体力点はそのまま。
(4)
どちらかの体力点が0になるまで死闘は続けられる。
キマイラの体力点が0になったら晴れて君の勝ちだ。冒険を続けよ。
君の体力が0になったらここでゲームオーバーだ。冒険を最初からやり直せ。
コンピュータが普及していなかった時代。書籍でRPGができる!
この画期的なイノベーションは世界中で流行しました。
3.紙媒体:漫画版
ゲームブックで物語を展開するのは何も文章である必要はありません。
その事を世に知らしめたのは「にゃんたんのゲームブック」シリーズ。
↑こんな感じで物語が進められ、途中迷路やなぞなぞが待ち受けています。
子どもたちの間で人気を博し、本シリーズは25作程あるようです。
(※このエントリ執筆時点で9作品が電子書籍として再出版されています)
あと、漫画界の巨匠、ゴルゴ13シリーズで名高いさいとう・たかを先生が携わった漫画のゲームブックも存在します。
巨大地震に襲われた街で、あなたは生き残ることが出来るだろうか?
行く手を阻む様々なトラップ。それには本当に震災にあった時に有効とされる手段も提示され、正しい選択肢を選ぶことで知識も学べるという素晴らしい作品です。
ゲームブックはクイズ形式で選択肢を提示することで教育的価値を持たせることもできると言う好例です。
4.電子書籍版
ご周知のようにパラグラフへの移動は「リンクがあれば楽」ということもあり、電子書籍と相性がいいのではないかという考え方もあります。
またKDP、Kindle Direct Publishingと言う個人でも書籍出版が容易に出来る環境も整っています。
そのため同人グループや個人(筆者を含む)でもかなり作品がリリースされており、近年では講談社など大手も参入しています。
過去に紙媒体で出版されたものを電子版で出版するという試みもなされています。(※先程挙げたにゃんたんのゲームブックなど)
筆者の見解では現状の電子書籍は紙媒体の呪縛をどうしても引きずりがちなので、本来ユーザーにとって閲覧しやすい環境が提供されているとは言えません。
また、紙媒体と電子媒体では表現方法が違うので、単純に紙で出版されたものを電子で再出版と言うのも簡単には行かないようです。
自分でも数冊出版したからこそ気づいたのですが、これはなにもゲームブックにも限らず、小説や漫画でも電子書籍フォーマットへの転換は簡単ではないようです。
電子書籍のフォーマットの見直しが求められています。
5.動画版
物語と分岐の組み合わせさえできれば、媒体は原則何でもいいのがゲームブックです。
日本で人気のある動画型のゲームブックはこちらです。
特別に「ゲームブック」と言う表現はありませんが、この類の動画はゲームブックに分類して差し支え無いと思います。
↑ご覧のように「ムービーゲームブック」と言う表現を使っています。こちらの作品は先の「隙間男2」と同じシステムを取り入れています。
こちらの作品の影響を受けて隙間男が制作された訳ではないようですが、このように動画の最後にユーザーへ二択が提示され、選択して次の動画へ移動すると言うタイプのものはゲームブックの一種です。
6.Twitter版
Twitterでアンケート機能が盛り込まれたので、
「それを使ったゲームブックが出来るんじゃないか?」
と言うTweetを、導入当時よく見かけました。
個人的には回答は24時間後じゃないと確定しない上、リンクを貼ることも出来ず次のパラグラフ遷移が難しいため、あまり実用的ではありません。
寧ろパラグラフ数分アカウントを用意するか、引用ツイート機能を利用するかがより現実的なゲームブックです。
現にあります。
↑まずこちらが23ものTwitterアカウントを無駄遣いして利用して制作された黎明期のTwitterのゲームブックです。
面白いかどうかは別として、「Twitterでゲームブックが出来るのか?」と話題になりました。
まともなゲームブックはこちらです。
↑引用RTを利用して選択肢を選ぶシステム。練られたストーリーやゲームシステム、挿入イラスト、お試しゲームやチュートリアルの用意など、大変にUIとUXが素晴らしく仕上がっています。お勧めのゲームブックです。
↑ドットキャラのGIFアニメで楽しいショートゲームブック。英語の勉強がてら、こちらもお勧め。
7.スマホアプリ版
世界中でスマホ全盛期ですから、ゲームブックをスマホでやろうと言う取り組みもあります。
今はサービスが終了しましたが、iGameBookと言うサイトは往年の名作ゲームブックをスマホアプリにリメイクしてリリースをしていました。
しかし収益に結びつけることが困難だったようで、昨年3月にサービス終了となっています。
それとは全く別の流れで、SNSの様な感覚のゲームブックが現れました。
「Lifeline…」です。 こちらのシリーズは本作を含め何作もリリースされており、日本と中国で人気を博しています。
開発ペースも早く、2015年の一年間で3作ですから4ヶ月に1作のペースです。
著者も筆者の問い合わせに「(主人公)タイラーの最期を君は見ることはない。誓ってもいい。期待しててくれ!」
と、返答してくれたので、今後も続編が発表されると思っていたのですが……💦
残念ながらソフトウェアメーカーが吸収合併してしまったようで、さらに親元会社はスマホアプリは今後開発する予定がないと筆者の問い合わせに答えました。
今後の続編のリリースはかなり厳しいことでしょう。
8.音源版
筆者は入手していないのでネットの情報からの推測でしかないのですが、この作品が一番優れた「音だけのゲームブック」なのではないかなと思っています。
噂によると、画面が真っ黒で何も表示されずに物語が進んでいきます。
つまり音声・音響だけしかユーザーは情報を得られません。
物語の展開でここぞというところで選択肢を選べるそうです。
そしてこの声優陣の起用が超豪華メンバーです。
柏原崇、菅野美穂、篠原涼子、裕木奈江、末広透、前田愛……。凄いですね💦
この作品をゲームブックとして定義するなら、それこそ目に不自由な方も晴眼者と同じ感覚で楽しめるゲームなのではないかと思います。
eスポーツが流行る令和の時代であっても、視覚障害者がゲームに興じることもありますが、完全に同じように遊べるのがこのゲーム最大の価値なんじゃないかなと筆者は思います。
9.まとめ
以上のようにゲームブックはいろいろなコンテンツとの親和性が非常に高いので、これからもいろいろ発展していくことでしょう。
オワコンと言われる向きも多いのですが、可能性や面白さや感動といったものを表現する、懐かしくて斬新な媒体です。
筆者もネットを散策したり、いろいろなニュースを見聞きして気づいたことがあれば追記していきたいと思います。
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