『14へ行け』で有名な『グレイルクエスト・暗黒城の魔術師』(ハービー・ブレナン著)のレビューを書きます!

ゲームブックレビュー

今回ご紹介するのはゲームブックの王道『火吹山の魔法使い』をはじめとするファイティング・ファンタジーシリーズと双璧をなす名作、ハービー・ブレナン著の『グレイルクエスト』シリーズ、その第一弾作品です。

名作って謳われてる割に筆者はその存在を2015年にゲームブック投稿サイトを立ち上げるまでは全く知らず、いろいろ情報を集めているうちに凄い名作だと言う事がわかり、ゲームオーバーの代名詞『14へ行け』と言うフレーズを知ったのもその時になってからです。(おいおい……)

 Amazonのレビューも評価が高く、気持ちを高ぶらせながら『暗黒城の魔術師』をポチして読んでみました。僭越ながらレビューを書かせて頂きます。

↑ページをめくってみるとこんな感じです。

  • 長文パラグラフが多く文章そのものが楽しく読める
  • 世界観や人物の設定、クエストがしっかりしている
  • 語り部がユーモアを交えて冒険を盛り上げてくれる
  • ゲームオーバーが必然で楽しい

はい、順をおって説明していきます。

長文パラグラフがが多く文章そのものが楽しく読める

冒頭は主人公の師匠とも呼ぶべき魔術師『マーリン』の囁きから始まります。かなり長く10ページも割いています。でも読者に語りかけるように書かれているのですんなりと物語に引き込まれます。

これが世界観やゲームのルール説明の役割を担っています。無味乾燥な説明書とは無縁で本当に楽しく読み進めることができます。この、マーリンと言う魔術師の性格・人柄がなかなか難癖がある割には実力も頼りがいもあり、とても親しみやすい存在で、アバロンの王、アーサーの全幅の信頼を得ているというのも頷けます。

ようやく冒険に旅だったと思ったら、今度はプロローグが6ページも続きます。ここで主人公の人となりやゲームのミッションが読者にグイグイ伝わってきます。

それにしても語り部はおしゃべり上手。読み進めるのが本当に楽しいです。

さあ、いよいよ最初の選択肢。これはサイコロによって決められます。(まあ、正直筆者はそれなしで有利に物語を読み進めましたが、時間が許すなら実際にやってみたほうが面白いことでしょう。)

物語序盤は実質世界観やミッションとゲームルールの説明となっており、挿絵も含めると実に35ページにも及びます。

ここまで読者を楽しませながら本来退屈な説明部分を読み進めさせる文章技術はブレナンのなせる技なのでしょう。これは執筆する方となると大変な労力や才能といったものが必要なのだと思います。

火吹山の魔法使いなどのファイティング・ファンタジーの影響を受けた作品が多数を占める中で、グレイルクエストのような語り部がユーモアに富んだ口調で語りかけてくる作品がほとんど見受けられないのは、そのためなのかも知れません。

世界観や人物の設定、クエストがしっかりしている

主人公はピップと呼ばれる、ファンタジーの世界では養父・養母に育てられた冴えない農家の若者。読者は魂だけマーリンによって、今読者のいる世界から本の世界へ魔法で召喚され、ピップの体に宿された存在です。

読者はピップと一体となり、マーリンから授かった剣「エクスカリバー・ジュニア」と数々のアイテム、魔術などを携えて冒険に旅立ちます。

目的は悪徳魔術師を倒し拐われた王女を救い出す事。ダンジョンのような暗黒城を彷徨うわけですが、行く手には様々なトラップが待ち受けています。

ゲームブックと言う特性もあり、ピップは冒険の途中で何度も死ぬんですよ。

まるでピップ”PIP”の名前は”RIP – Rest In Peace(安らかに眠れ)”の捩りなんじゃないかと思えるほどです。

そして武器である「エクスカリバー・ジュニア」が相棒とも言うべき面白い立ち位置で、実はピップと意思疎通ができるんです。

しかも武器だというのに敵によっては戦いを拒絶する描写もあったりで……ぶっ飛んだ発想です。

語り部がユーモアを交えて冒険を盛り上げてくれる

これがこの作品の一番の目玉でしょうね。語り部が面白楽しい口調で物語を進めてくれるのですが、時折悪戯をするんですよね。

いや、どんな悪戯か具体的に説明しちゃうとネタバレになりますのでちょっと抽象的に一例を言うと「どの選択肢でも同じだろ」と言うもの。

また手の込んだ演出で「選んでもらおうか?」などと言ってきますので当然読者は一生懸命考えるんですけど、選んで読み進めて「選択する意味ないやん! やられたー」とウケルこと必至です。本当に筆者は笑いましたよ。

こう言う感じのユーモアは筆者が本当に取り組んでみたいことなんですよね。ま、筆者も実際ちょっとだけ自作ゲームブックに盛り込んだりもしてますけどね。

ゲームオーバーが必然で楽しい

読者は何度もバッドエンドにたどり着きますが、かつてここまで楽しいゲームオーバーがあったでしょうか。

荒いモザイク掛けさせてもらいましたがこれがあの有名な「14へ行け」のセクション14です。

読者は何度もここに来るのが大前提なんですよ。そして死んでも読者はまた良好に冒険をやり直せるのです。

凄いのは

  • 既に戦った相手はもういないものとして扱う
  • 使ったアイテムは使用不可
  • 生命点は再度決め直す

と言うように、完全なやり直しではなく、ゲームクリアが近づく設定でコンティニューができる点です。

これは当時画期的だったことでしょうね。正直筆者はバトルや運試しを「都合の良い目が出た」想定で読み進めてしまいますが、真面目な方はこのブレナンの粋な計らいに歓喜したことでしょう。

「14へ行け」がゲームブック愛好家で「ゲームオーバー」の代名詞として使われるようになったのも頷けます。

これ以上のゲームオーバーは今後いかなるゲームでも出てこないかもしれませんね。

しまいには語り部も「○○と言うトラブルが起きた。どうなるか分かるだろう? そうだ14へ行け」と言うようになってくるし。

おまけ

付録ページもなかなか凝っています。

冒険日誌。いわゆるアドベンチャーシートです。これは普通ですけど……、

禁断の書』なんてのもあるんです。しかも「見・る・な!」って。

さらに『「見るな!」といわれれば、見たくなるのが哀れな人間の習性』とまで書いてくれているのですから、至れり尽くせりです。

ホント、笑ってしまいます。

でもこれどう活用したらいいのか最初は当惑します。

まあ、読者が自由に使っていいのではないでしょうか。筆者は冒険を終えたので見てみましたが、冒険のヒントとなる事でしょう。

なので、「どうしても解けないよ~」と悩んだ時に見ちゃえばいいんじゃないですかね?

だって、クリアした後だと、あんまり必要性が無くなってしまいますものね。

もちろん、「あ、そうなってんの?」と頷くことも一興と言えますけどね。

終わりに

以上、いかがでしたでしょうか?

まだ読んでいない方は強くおすすめします。こんな楽しいゲームブックがあったのかと驚かされることでしょう。

マップ自体もそんなに難しくはないと思います。困ったら禁断の書が有りますし。サイコロ転がす手間が煩わしければ頭のなかで都合のいい目を思い浮かべてもいいと思いますよ。

とにかく、読者が楽しめることが一番ですからね。

この作品を読了した筆者が得た教訓は「天狗にならないこと」です。

うーん深い! 大変勉強になりました。

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