デジタルゲームブックとして人気のLifeline…シリーズの第一弾。
筆者も何度かプレイし、ようやく登場人物タイラーの生還(恐らくベストエンドではない)までこぎつけたのでレビュー・感想・思ったことを述べたいと思います。
ゲーム内容
ある日あなたの元にこんなメッセージが届きました。
突然のメッセージに返信することから物語は始まります。
どうやらメッセージの主は宇宙飛行士研修生で、訓練中に事故に巻き込まれ、仲間うちからたった一人生存したようです。
彼の名はタイラー。
見知らぬ宇宙の星で孤独な彼はあなたのアドバイスを必要としています。
タイラーはリアルタイム(の様な演出)で状況をあなたに報告・連絡・相談(ホウレンソウ)をしてきます。(出来る人みたいですね)
あなたは思慮を働かせ、時にはググってみたりしてタイラーの期待に応え、相談に乗り、時には悩みや愚痴に付き合い、指示を出します。
あなたは想像を絶する極限状態に居るタイラーを見事生還させることが出来るでしょうか?
ゲームシステム
タイラーからのメッセージが状況把握の全てです。
彼なりに選択肢を考え、あなたにどちらがいいかを聞いてきます。
場合によりタイラーの提案なしにあなたが返答する場合もありますが、いずれにせよプレーヤーは二択のうち一つを選択することで物語を進めます。
もちろんゲームブックですから、選択肢によってはバッドエンドを迎えます。
ただ、いきなりのバッドエンドはないようで、ほぼ同等の選択肢が並ぶ場合や、とある選択肢を選んでも、結局はもうひとつの選択肢を選ばざるをえないという状況もあります。
純粋に二択の選択肢を選ぶだけで謎解きやTRPG的な要素はありません。
メモも取り立てて必要とは思いません。
そのため物語や世界観の完成度が非情に高く、思わずのめり込んでしまうことでしょう。
物語の演出
先程も少し触れましたが、タイラーはリアルタイム(の様な演出)で行動します。
つまりかなりの距離を歩くとなればしばらく連絡が途絶えますし、タイラーは必要かつ可能なら食事も睡眠も取ります。
通常の人間であればそのために時間を取られるわけで、タイラーがその行動を行っているときは「取り込み中」と言う表示になり、こちらから連絡は出来ず彼からの連絡待ちという状態になります。
これは嘗て流行した「たまごっち」に似ているような気がします。
作品の特徴
割りとネットで評価されているのは
「タイラーが皮肉屋」
ということなんですけど、これは作者がですね~
アメリカ人によるところが大きいと思うんですよね。
例えば日本人ならマンション住まいでお隣さんがうるさいとなれば
「静かにしてもらえませんか」
と直接的な表現でお願いするのに対し、アメリカ人は
「もっとうるさく出来ないのかい?」
と皮肉を込めて言うわけです。
もちろんもっとうるさくして欲しくてこう言う表現を使うわけでないのはお分かりですね?
ま、なのでとりわけタイラーが皮肉屋と言う訳でもなく、極普通のアメリカ人気質というところでしょう。
あと日本語版では読者側が女性言葉です。
筆者もよく読者を「あなたは20歳男性!」と強引に設定しますが、何の脈絡も無しに「女性」になっているところが面白いですね。
(まあ、おネエ系と言う可能性もありますネ)
ま、ここは勝手にグラマラスな20代アメリカ人女性を気取ったほうが気分がノリますよ。
こちら側の選択肢も結構皮肉が利いていることも多いので。
総評
タイラーは生きるか死ぬかの極限状態です。
サバイバルゲームを生き延びるためにはかなりの過酷な状況判断を必要とするときがあります。
もちろんゲームの枠を超えていないので、ホラーや恐怖要素を含むとはいえ小学生高学年でも楽しめる設定ですが、とにかく深いですね。
本当にいろいろ考えさせられます。
ゲームブックで終わらせるのが勿体無いくらいです。
(と言うより、ゲームブックが高い可能性を秘めていると考えるべきでしょうね)
読者がまさにタイラーのLifeline(ライフライン)を担います。
ですが彼もなかなか高度な判断をするので負担は半分で済んでいる感じがします。
本当に異星を彷徨う宇宙飛行士の救命に携わっているかのような感覚にとらわれるので夢中になれることでしょう。
物語全体が謎解きとなっていますよ。
一度はゲームオーバーになると、謎が少し解けだして、より良い選択肢を選ぶことができるようになるでしょう。
これはゲームブックとして理想的な形と言えますね。
お勧めですよ!
なかなか選択肢で好みのものが出てこなくて迷うこともありますが……。(それはご愛嬌笑)
ゲームブックを作る身として思うこと
この「Lifeline…」をプレイして痛感したのは面白いゲームブックを作るのには必ずしもゲーム的要素をつけなくてもいいのかも、ということです。
ゲーム的要素とは、TRPG、迷路、謎解きなどのことです。
それぞれ代表格のゲームブックは「火吹山の魔法使い」「にゃんたんのゲームブック」「人狼村からの脱出 狼を見つけないと、殺される (脱出ゲームブック)」です。
それほど今回の「Lifeline…」は上記ゲーム的要素なしの、選択肢を選ぶだけと言うプレーンで尚且つ面白いゲームブックなのです。(※筆者の独自研究です)
更に凄いところは、双方向のダンジョン形式を取っていないというところです。
正直ダンジョン散策って、マップさえ作れば簡単に選択肢が書き上がります。制作者側としてはかなり楽だと言えます。
それなしの選択肢だけでゲーム性を高めるとなるとものすごく創意工夫や世界観の高度さとか物語の深さとか、あらゆることを考えて創りあげなければなりませんから大変です。
作者の方の力量をまざまざと見せつけられた感じです。
素晴らしいなと思うと同時に、やはり悔しさは隠せませんね。
筆者も負けてられません。
どうしたら良質のゲームブックコンテンツが生み出せるか。
常日頃考えていきたいと思います。
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